物語
島長になる前のパトリオは、まだ何者でもない、ひ弱で音楽を愛するだけの青年だった。幼馴染のノア、ペマとの三人で歌う時間だけが、彼にとって数少ない自由だった。 そこに現れたのが、隣のハイカラ島から来た女性——アメリア。
いずれ島を継がねばならない運命を背負う彼女は、パトリオとは違う目でこの世界を見ていた。最初はすれ違っていたふたりも、彼女が語る話や、口ずさむハイカラの音楽に触れるうち、パトリオは少しずつ、心を開いていく。
けれど、彼女には、誰にも——パトリオにさえ——まだ明かせずにいることがあった。
「愛」か、「使命」か。
そして、あの夜。海を越えて届いたひとつの知らせと、パトリオのいつもの頑なさが、同じ夜に重なった。
アメリアは、幼い娘・リベルに一通の手紙を遺し、島を去る。
「いつか、母が渡れなかった海を渡って」——明日への手紙。
あの夜、本当は何があったのか。パトリオ自身も、その答えをまだ知らない。10年の歳月を経て、彼はようやく、居合わせた人々の記憶を持ち寄り、お客さんと一緒に、あの夜を組み立て直そうとしている。
その手紙は、10年後の本編『ホンジツ島のマジックアワー』へと繋がっていく。 人と向き合う勇気、愛と自由のあいだで下す、ひとつの選択——ひとりの女性が遺した手紙は、次の世代へと続く、長い旅の始まりだった。